足りぬ研究費、接近する軍事 科学者の責任、どう考える

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 大学などの研究機関が資金を求めて競争する中、「軍事への接近」が議論を呼んでいる。防衛省は安全保障分野への応用を見越した研究への助成金を2017年度、前年の18倍となる110億円に引き上げた。15年度に助成を受けた九つの研究機関のうち、六つが神奈川県内に関連拠点を置く。軍事技術がおびただしい犠牲を生んだ戦時の反省と安全保障の現実にどう向き合うか、社会全体で考えることが求められている。

 防衛装備庁は相模原市などに五つの研究拠点があり、約400人の研究者が所属する。他国と比べて「技術的優越」を確保するため、民間の研究にも投資して自衛に役立てたいとして、軍民両用(デュアルユース)の基礎研究資金を助成する「安全保障技術研究推進制度」が2015年度に始まった。研究成果は原則公開とされる数年の研究期間を終え、実用化の可能性が見込まれれば防衛装備庁が研究を引き継ぐ。

 16年度の予算は6億円で、44件の応募があった。17年度は110億円に急増した。

 神奈川工科大の研究テーマは、航空機の軽量化につながる、カーボンナノチューブによる繊維とプラスチックの接着技術。ほかにも県内から国立研究開発法人や企業が選ばれた。応募の背景を聞こうと、研究者への取材を申し込んだが、「年度末で多忙」(海洋研究開発機構)などといずれも断られた。

 ただ、海洋研究開発機構の広報担当者は「資金難が理由ではない」とする。富士通は防衛装備庁が公募した基礎研究のテーマが「当社がこれまで行っていたテーマと合致した」という。ある研究機関の広報担当者は「軍事利用のために積極的に申し込んだわけでは決してない。いろんな使い道のある技術なので、基礎研究を続け、発展させたいという思いだ」と話す。

 制度をめぐっては、「民生技術の軍事利用だ」との批判が高まり、関西大学が学内からの申請を禁じるなど、各地の大学で対応する動きが起きた。日本学術会議は「戦争を目的とする科学の研究には今後絶対に従わない」とした1950年と67年の声明について議論した末、「継承」することで決着した。

 慶応義塾大の伊藤公平教授(物理情報工学)は「軍学研究には反対。文部科学省から防衛省へ、科学研究費の出どころがシフトするのはおかしい」と指摘する。ただ、研究機関や研究者個人が批判にさらされることには疑問を呈し、「武器を持つ者こそ学を深め、正しい倫理観をもつべきだという考え方もある。意見の合わない人を分断して敵に回すのではなく、正しい使命を与えるのも大学の役割」と話す。

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 外部の専門家として「安全保障技術研究推進制度」の研究テーマの審査に携わった、神奈川工科大の石濱正男客員教授(自動車工学)は「技術開発は必要。ただし、専守防衛が大原則」と話す。

 日本は都市機能が限られた土地に密集している。近隣諸国とも緊張関係にある。「安全保障上はわずかな信号でも見逃さず、見張っておかないと。最低限の自衛の技術だけは、どうしても必要だ」

 ただ、基礎研究の成果がどのように実用化されるのか、チェックする仕組みはない。「懸念しているのは、どんどん歯止めがきかなくなること。専守防衛の原則を守らなければ、攻撃にも使えてしまう技術ばかりだ。どこまで容認できるのか、議論し、チェックしていかなければならない」

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 横浜市栄区に、半世紀以上にわたり、科学者が社会に対して果たすべき責任について訴えてきた理論物理学者がいる。慶応義塾大学名誉教授の小沼通二(こぬまみちじ)さん(86)だ。日本人で2人目のノーベル物理学賞受賞者、朝永(ともなが)振一郎を師と仰ぎ、原子爆弾の創造に科学者が携わった反省から、核兵器廃絶を訴えてきた。

 1957年、カナダのパグウォッシュで核兵器と戦争の廃絶をめざして世界中の科学者が話し合う会議が開かれた。帰国後、朝永は「日本が核兵器にどう向き合うかは、政治家や外交官だけで解決できる問題ではない。核兵器が何たるかを分かっている、われわれ物理学者も考えるべきだ」と語った。

 小沼さんは同年発足した日本パグウォッシュ会議に、湯川秀樹や朝永らとともに創設時から参加した。

 安全保障技術研究推進制度について話し合う日本学術会議の会議には、欠かさず出席した。「当面は軍備をもつことは否定できない。でも大事なのは、科学やスポーツ、文化を通して、交流を続けること。世界が戦争をしないために、一歩一歩軍備を減らしていき、戦争ができない状態にしていかなくては」

 学術会議がこの春、大学などの研究機関は軍事研究に携わるべきではないとする声明を継承したことについて、「大学や研究機関だけでなく、国民全体の問題。これで終わりと思わず、日本のかたちをどうするのか、一人一人が議論を続けていくことが大事だ」と話す。(天野彩)





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